投獄、拷問、そして家族と引き裂かれた、とあるイラク人男性の壮絶な記憶
旅するシンガーソングライターの
内田美穂(@bleatand)です。
今回は、マレーシアのホステルに滞在中に出会った、イラク人男性の話をしようと思う。
投獄、拷問の記憶
「僕は、イラクのバグダッドで、家族と共に暮らしていたんだ。
けれどある日突然、僕らの家に、武装した民兵達(ミリシア)が襲撃しにきた。
僕と、僕の兄弟を拘束するためだ。彼らはエネルギーのある若者を恐れていたから。
そして、シーア派の彼らは、スンニ派の僕らを、僕らがスンニ派であると言うだけで憎んでいたから。
あの日、僕は家族や自分を守るために、襲撃してきたミリシアに応戦したんだ。
応戦の最中、肩と足を撃たれ、僕はその場に倒れこんでしまった。そして動けなくなった所を拘束され、牢屋に連れていかれたんだ。
僕は、そうして投獄された訳だけれど、道端では毎日のように、突然現れたミリシアに、銃で撃たれたり、殴られたりして、人々がその場で殺されていたよ。子供も大人も関係ない。15歳程度の少年や、4歳ほどの子供も皆んなだ。スンニ派だというだけでね。
そして彼らが貧しい家庭出身であれば、ミリシアはその場で殺し、裕福な家庭出身であれば、牢屋に連れて行って投獄するんだ。
そこでは電気ショックや殴る蹴るの暴行を毎日何度も受けたし、身体中の骨を何度も折られた。
食事は、ほんのスプーン数杯分のスープが1日1回与えられるだけ。
人が目の前で死ぬ所を何度も見てきたよ。時には肛門に長い棒を深く突っ込まれ、「助けてくれ」と言いながら1週間流血したまま目の前で死んだ男もいた。その棒は、彼の体の奥まで達し、内臓まで傷つけていたんだ。
ある時は幅4m、奥行き5mの部屋に、83人もの人々が収容されていた。また、ある時は人1人座れるだけの広さの独房に、僕は閉じ込められていた。
拘束中、毎日、死んだ方がマシだと思っていたよ。
この地獄のような生活は、1年間も続いた。
父親が7000ドルという大金を、彼らに払ってくれたお陰で、僕はそこから逃れることができ、今こうして生き延びられている。もし、彼がこの金額を用意できなければ、僕は間違いなく、他の拘束者のように死んでいただろう。
だけど、僕は二度と自国に帰ることはできない。
帰れば拘束されて今度こそ殺されるのがわかっているからね。
両親はイラクで生活しているけれど、兄弟はドイツに逃げ、自分と同じように海外での生活を余儀なくされている。従兄弟2人はすでに殺されてしまった。
僕は獄中、毎日、ずっとアッラーに祈っていたよ。どうかこの苦しい生活が、終わりますようにって。
母も、僕が投獄されている間、毎日自分のために祈ってくれていたんだ。イスラム教では、母の祈りは一番強く神に届くとされているんだ。
だから、今こうして僕が生きているのは、神と母のおかげだ。
もし、自分が母親にもう一度会えるとしたら、二度と離さない程長くしっかり彼女を抱きしめたいよ。そして母の足元に跪いて、足にキスをする。
もし、家族が病気になったと聞いたら、僕は殺されると分かっていても、必ずイラクに戻るさ。
もう一度、もう一度、家族と一緒に暮らしたい。もう一度でいいから、家族に会いたい。素敵な奥さんをもらって、可愛い子供を授かって、幸せな家庭を築きたい。それだけが今の僕の夢だ。それ以外は何もいらない。」
こんな話を語ってくれた彼の小指は、拷問中にへし折られたせいで、今でも曲がっている。身体には、銃で撃たれた傷跡や、拷問の痛々しい傷跡がたくさん残っている。
この話をしてくれている間、彼は何度も何度も「アルハンブリラ」(神への感謝の言葉)と自然に口からこぼしてた。
家族と一緒に暮らすだとか、家族にもう一度会うだとか、私にとっては当たり前に手にできている幸せだ。そんな当たり前の事を、たった一つの望みとして願っている彼。
私はあまりに沢山の事を望みすぎているのかもしれない。当たり前の幸せを当たり前にすでに手にしている事にさえ、気づいていなかった私。そしてそれ以上の事を望める幸せ。
彼の話を聞いている間、怒りとか、悲しさとか、色んなものがこみ上げてきて、涙がこぼれてしまった。
それを見て、彼は笑顔で、「おいおい、泣かないでくれよ。もう1年前のことなんだ」と、逆に励ましてくれた。それに対して余計に涙がこぼれた。
日本で暮らしていると、こういった話は、遠い異国の惨劇に感じられてしまうかもしれない。
そもそもこういう話を知る機会も少ない。
世界には、まだまだたくさん、紛争や難民、災害、貧困など、多くの問題が残っているけれど、そういった問題や悲しい出来事に、今この瞬間も苦しんでいる人たちが世界のあちこちにいるという事を、普段は忘れて生活できるほど、私は幸せすぎるほどに幸せだ。
きっとまた、数日すれば私たちは元の幸せな生活に戻り、今もどこかでこういった悲しい出来事が起きていることを、普段は忘れてしまうかもしれない。
それでも、世界のあちこちで起きているこういった悲しい出来事が、終わるように。世界から忘れ去られてしまう事の無いように、どうかたくさんの人に、この話を知って欲しいと思います。
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