バイバイムーン
朝、リアの看病から帰って来た私たち。
人の看病帰りな訳だけど、私も私で体調が最悪。
鼻をずるずるすすりながらあのレストランに行くと、先客がいた。
まあ、「先客がいた」と言ってもこのレストランは、私と同じホステルに泊まってる男性客たちに人気なので、いつも誰かしらが、タバコをふかして、シェフのおじさんとおしゃべりしているのだが。
その先客は、今日は、ナイジェリア人の陽気な男性だった。
彼は私を見ると、毎回、
「コンニチハ〜元気デスカ〜!」
とでかい声で挨拶してくれる笑
実は彼、東京在住で、日本人の奥さんがいるんだよね。
今は一人でマレーシアを旅行中なんだって。
日本語で挨拶すると、次に
「マレーシアはいつ発つの?次はどこの国?」
と彼は私に聞く。
「インドだよ!ギターで飛行機のチケットを貯められたら、すぐ行くつもり。だからいつかはまだわからない。稼ぎ次第かな。」
私は、そんな彼と話している間にも、ずるずると鼻をすすり続ける。
すると彼は言った。
それ、
「インフルエンザだよ〜!
マスクしなきゃヤバイよ〜
待ってて!日本のマスク!ある!あげる!」
と言ってどこかにいなくなったかと思うと、ホステルの自分の部屋に戻り、日本から持ってきたマスクと、私も愛用している、のど飴をくれた。
優しいなあ。
すると、今度は、それを見ていたシェフのおじちゃんが、
「彼がさっき、このお菓子くれたんだよ。2つもらったからあげるよ」
と言って、ベビースターをくれた。
ありがたや〜。
すると、シェフのおじちゃんは言った。
「everyone likes you, everyone keeps an eye on you! (みんな君を好いてる。そして、みんな君のこと気にかけてるんだよ。)なんでか知ってるか?みんな君を娘のように思っているからさ」
ありがとう。みんな。
さて、今日は、ムーンが中国へ帰国する日だ。
私は、彼女を、バスターミナルまで見送りに行く。
私が彼女とホステルを出ようとすると、
バッセムも、ついて来てくれた。
ムーンは、本当に、心の優しい女の子だ。
恥ずかしがり屋で、引っ込み思案なところがあるけれど、芯が強くて、頑固で、何よりとってもしっかりしている女性だ。
だから、年下の私をいつどんな時でも毎日気にかけてくれていた。
「あなたは妹、ひょっとすると、娘のようなものだから」
といつも言っていた。
ムーンは、私にとって、このホステルで一番最初にできた友達だ。
ベッドに座ってスマホをいじっていた彼女に、私が話しかけたのだが、あの時、ムーンに話しかけて、本当に良かったって思う。
それから私と彼女はとっても仲良しになれたから。
「もし、ミホが話しかけてくれなかったら、私はきっと、このホステルで誰とも喋らなかったと思う。去年もこのホステルに泊まっていたのだけど、その時は誰とも喋らなかったのよ。こんな風に、たくさん友達を作ることなんてなかったと思う。ありがとう」
彼女はそんな風に言ってくれていた。
でも実際は、私の方がありがとうって言いたいよ。
彼女はいつも私を助けてくれていた。
それに比べて私は、いつでも彼女に助けられてばかりいた。
それを私が彼女に言うと、
「あなたはまだ若いからいいの。その代わり、あなたが大人になった時、下の世代の人を助けてあげて。」
そう言った。
私が、アロー通りで出会ったマレーシア人たちに言われた言葉と同じ言葉だった。
私は、今回の旅で、自分が助けてもらった分、人に恩返しがしたいと思うようになった。
それは、自分に優しくしてくれた人達だけにではない。下の世代やもっと大きな話で言えば、社会に。
それが、今、旅をする中で思い始めていることだ。
この気持ちを、ずっと忘れないようにしたい。
彼女がバスに乗って、去って行く時、不思議と、あまり悲しい思いはしなかった。
きっとまた会えると、信じていたからかもしれない。
私はまた、いつも通り、お寺に無料の料理をもらいに行く。
今日のメニューは、半分以上がデザートという、謎の献立だった。
辛いポテトサラダのようなもの、豆、マンゴーを甘く煮た物、あんこのようなもの、得体の知れない黄色い甘い何か、の組み合わせだ。
実はこのお寺には、ヒンドゥー教徒に混じって、私もちゃっかり毎日通ってるので、顔を覚えられている笑
ムーンが食べ物をもらいに行くと、
「あの日本人にも持って行ってあげて!彼女にはちょっと特別のご飯用意してあるんだ」
と言われて2つも食べ物をもらえるらしい笑
それに驚いたムーンは、いつか私にこう聞いた。
「どんな魔法を使ったらそんなに仲良くなれるの?あなたの話がよっぽど心にtouchしたんだね」と。
その場にいた、65歳で世界一周中の日本人の田島さんは
「あんたよっぽど印象が強いんだね」
と言っていた。
でもね、単純に、地元のヒンドゥー教徒しか行かない、観光客なんて全くいない超絶ローカルなお寺に、毎日カメラ持って興味津々に熱心に動画や写真撮って、食べ物もらいにくる日本人がいたら、それだけで覚えられた当たり前だ笑
ただ単に
「今日の食べ物、これは何でできてるんですか?昨日の食べ物美味しかったからまた作ってください」
とか、
ヒンドゥー教のたくさんいる神様の名前と、その一人一人のストーリーを覚えたりして覚えてきたことを話したり質問したりしてるだけ。
別に特別なことなんて一切してない。
でも、自分の言動行動から、私がヒンドゥー教に興味を持って、ここの食べ物のことも好きなのが、自然に相手に伝わってるから、だから向こうも優しくしてくれるんだと私は思う。
ただそれだけのこと。
自分達の文化や食に興味持ってくれる人を悪く思う人はいない。
気を付けてることがあるとしたら、
笑顔と謙虚さと、ちょっとしたずうずうしさかな笑
この日の夜も、私はいつも通り、路上ライブに向かう。
今日も様々な人たちが、応援してくれた。
97.1RM
600台湾ドル 693円
10000ベトナムドン 46円
チップの中には、色々な通貨が混じっていた。
日本円で、計約3269円いただいた。
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