公園で。
チェックアウト、時間間に合わないんじゃね?
というところから、この日の朝は始まる。
もう少し、ベッドに入っていよう。
だってまだチェックアウトまで2時間あるし。
だってまだ1時間あるし。
だってまだ30分あるし。
この思考が、私をタイムアウトのラインギリギリへとぐいぐい押しやっていっているのは分かっているのだが、なかなかベッドから起き上ることができない。
この散らかった寝床を見ると、パッキングが嫌で余計に動きたくなくなる。
あと20分、今起きないと、さすがにやばい。
という最最最終的なラインのところで、ようやく私は重い体を起こす。
日本を出る前にはせっかくカテゴライズしてパッキングしたバッグだが、そんなことも言ってられず、全てのものを適当にごちゃごちゃにバッグに突っ込み、最終的には3分前にチェックアウト成功。
ほんとこれ、旅中に必ず直したい私のダメなとこ。
めちゃくちゃ重たいザックを背中に背負い、そこそこ重たいリュックを前に背負い、片手にギターケースを持って、宿を出た私。
とりあえず宿を出たものの、次の宿を取っているわけでもなく、行く当てもなく、信号のそばに設置してあったベンチにとりあえず腰掛けた。
上を向くと、灰色に汚れたビルの間から、真っ青な冬の空が広がっていた。
吹く風に寒さを感じてジャケットを羽織る。
あー、路上ライブ、しなくちゃなあ。
その前に、ちょっとギター練習したいなあ。
公園でも行って、ギター練習するかあ。
その前に、お腹空いたなあ。
私は再び重たい荷物を背負い、台北の街を歩き始めた。
食べ物を求め、西門町の方へ歩いていく。
繁華街から一本外れた路地裏を見つけ、そこへ入っていく。
すると、湯気を立たせて店先で料理をする、おばちゃんを発見。
どう見ても旅行者が来そうな場所ではないが、気になったので入ってみることに。
メニューの中から、気になった、麻醬麺を注文してみる。
英語は全く通じない。
とりあえず、指差しでコレ!と伝える。
そうして出てきたのは、ほうれん草とモヤシたっぷりのゴマダレ麺だった。
これ、台湾滞在中に食べて料理の中で、1、2を争うくらい美味しかった。
日本の担々麺の、辛くない版、と言ったらいいかもしれない。
ゴマのタレが濃厚すぎて、美味しいのなんの。
麻醬麺って、台湾グルメとしてあんまり知られてないけど、超絶おすすめですよ!
しかも結構な頻度で見かけるので、簡単に食べられます。
さて、と、お腹を満たした後は、その足で、公園へ向かう。
路上に出て人前で歌う前に、まず、少しギターを練習したかった。
だって、これが人生初の路上ライブだから。
日本だって、路上ライブなんてしたことないもん。
ラジオやライブで歌うのは、もう100回くらいしていると思うけれど、路上でいきなり知らない人の前で歌うのは、ちょっと勝手が違う。
私の歌を聴くためにライブハウスに来てくれているいる人たちの前で歌うのと、通りすがりの私のことなど興味もないだろう人たちの前で歌うのは、訳が違う。
とにかく、この時の私は、相当チキっていた。
とりあえず、公園のベンチに腰掛け、ギターを取り出す。
日本からコピーして持ってきた、涙そうそうの楽譜を出し、音を出してみた。
この都会のど真ん中の公園で、いきなりギターを弾きだすなんて、変に思われるかもしれない。
最初はそんな風に思った。
そしてそう思うと、ギターは弾けても、声を出して歌ってみるということが、難しかった。
実際には、誰も周りにいやしないし、いたとしてもみんな自分の道を歩んでいるので、私のことなんて気に留めもしないだろう。気に留めたとしても、赤の他人。それはたった一瞬のことで、私のことなんてすぐ忘れるだろう。
けど、周りを気にしてしまうと、なんだか思うようにやりたいことができない。
なんでだろう。
例えばここがライブハウスだったら、スタジオだったら、迷うことなく大きな声で歌えている。
公園は歌うためにある場所ではない。
という、
”すべき場所”、”すべきではない場所”
という概念が、私の足を引っ張っているように思えた。
普段、人目なんて気にせず、やりたいことをやれ、と言っている私も、こういう場面では多かれ少なかれ躊躇をするのだと思うと、なんだか少し不思議だった。
私はやりたいことがしたくて旅に出てるんだから、
この際、”すべき”とか”すべきじゃない”とか、そんなの関係ないよ。
第一それも旅中伝えたいことの1つなんじゃないか。
と思って、声を出して練習をし始めた。
そこからは、もう、誰が私を振り向いても、犬を散歩中の人が立ち止まってじっと私を見ていても、気にしなかった。
鉄棒で筋トレをするおじさんがいる。
大声で電話をしながら笑っている人がいる。
花壇の縁に腰掛けて、タバコを吸っている人がいる。
ベンチに腰掛けて歌う人がいてもいいじゃん。
誰かの目を気にしていたら、やりたいことなんてできない。
私は私、あなたはあなた。
それでいい。
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