カンボジア到着早々、悪質ドライバーと闘う
バンコク出発からバスに乗って7時間、シェムリアップに到着した私。
ここは、今乗ってきた、タイとカンボジア間を移動するバスを運行するバス会社のオフィスだ。
ずっと狭い座席と座席の間に身を仕舞い、同じ体勢を取り続けてきたせいで、身体中が痛い。
荷物を持ってバスから降り、外の空気を吸いながらようやく伸びをして体の関節を伸ばすと、
「市内に行くんだろ。だったらトゥクトゥクで送っていくよ」
と、カンボジア人の男性が話しかけてきた。
さっきまで乗ってきた、バス会社のスタッフだ。
「いくら?」
「何言ってんだ。君が払ったバス代に料金は含まれてる。無料だよ!乗ってくか?」
無料なら、もちろん答えは、
「イエス!」
に決まってる。
そうして私は、シェムリアップの中心地に取ったホステルまで、トゥクトゥクで無料で送迎してもらうことになった。
案内される場所へついていくと、目の前に現れたのは、はタイのトゥクトゥクとは全く違う、レトロなデザインのトゥクトゥクだった。
手すりが木で出来てる!
全体的に茶色で超素敵。
バンコクのトゥクトゥクはこんな感じでギラギラしていた。
ブレーキを踏むたびに、ネオンライトが赤や紫、緑、黄色と色を変え、まるでナイトクラブの明かりのようだった。
それはそれで好きだったけどね!
さて、早速トゥクトゥクに乗り込むと、赤い土の道をガタガタと、走り出した。
トゥクトゥクのお兄さんは、時々私を振り返り、
「日本ダイスキ!日本人トモダチ!」
と片言の日本語で時々話しかけてくる。
そんな彼の最初の印象は、
”笑顔が素敵で、優しそうな日本好きのお兄さん”
だった。
そんなお兄さんの背中越しに、地元の人たちが暮らす住宅地をバイクに乗って眺める。
その景色は、素朴という言葉がぴったりだった。
赤い土の地面、家の前で飼われた牛たち、道端で遊ぶ子供たち、張ったヒモにかけて干した洗濯物。
観光客が行くような場所は、ほとんどが観光客向けに作られた文化になってしまっているけれど、こういった現地の人たちが暮らす場所で、人の暮らしを垣間見るのは、旅をしていて心が躍る瞬間の1つだ。
私は、直感で、
「あ、この街好きだと思う」
そう感じた。
もしかしたら、去年行ったネパールの、田舎の村に似ていたからかもしれない
そんな素朴な町を、自転車を追い越しながらしばらく行くと、トゥクトゥクは細い路地へと曲がった。
するとそこでお兄さんは、車を止め、私を振り返ってこう言う。
「SIMカードは必要?必要なら、SIMが買える場所まで連れていくよ」
夜暗くなってから、初めての町で一人でカードを買いに行くの面倒なので、そのままお兄さんにSIMのお店まで連れて行ってもらうことにした。
そこからしばらくトゥクトゥクを走らせると、到着したのは、駄菓子屋のような古めかしい雰囲気の漂う小さなお店だった。
それは、思っていたSIMカード屋さんのイメージとは、だいぶ違うものだった。
こんなとこにスマホが売ってるの、、、?
ホンモノだよね??
と言うのが、最初に頭に浮かんだことだ。
そう思っていると、お兄さんは、何やら厚紙のボックスを取り出し、中から小さなカードのようなものを取り出した。
その、厚紙の箱に無造作に入れられただけのカードが、なんとSIMカードだったのだ。
私は、またも、
「これ、ホンモノなの、、、?」
と同じことを思う。
だって、ただの厚紙の箱に、本当に無造作にSIMカードらしきものが入れられていただけだったから。
「本当は作動しない偽物を買わされたりでもしたら最悪だ」
とっさにそう思う。
彼が私のスマホにSIMカードを入れ終えると、私は真っ先に、ネットに繋がることを確認した。
無事にインターネットが使えることを確認すると、言われた通りの7ドルを支払った。
そして私はまたもとのトゥクトゥクに乗り込むと、一緒に外に出ていたお兄さんが、運転席へ戻ってくるのを待った。
が、トゥクトゥクのお兄さんが向かってきたのは、運転席ではなく、私の乗る後部座席の方だった。
何かと思って一瞬身構える私。
すると彼が口にした言葉は、
「アンコールワットに行く予定はある?」
だった。
私は、嫌な予感がした。
といのも、運転席に向かうはずの彼がわざわざ私の方へ来て、そう聞くのには訳があるに決まっているから。
アンコールワットに行くのは、心の中では決めていたが、念の為、
「まだわからない」
と答えてみる。
すると彼は、何やら折りたたまれた大きな紙を、トゥクトゥクの天井の鉄ごうしの間からさっと取り出した。
それは、シェムリアップとアンコールワット遺跡群の載った、観光地図だった。
彼はそれを私に見せると、頼んでもいないのに、
「アンコールワット1日プラン、朝日も観れるプラン、遺跡を全て回る3日間コースがあるけど、どれにする?」
と説明し始めた。
「いやいや、『どれにする?』の前に、私はアンコールワットに行くなんて、一言も言ってない。。。
まして、君を観光案内のトゥクトゥクとしてチャーターするなんて、なおさら言っていないぞ。」
そう思いながらも、私は、別にまだアンコールワットのことのことも、その周辺の遺跡群のことも何もプランしていなければ、調べてさえいなかったので、正直に
「まだ何も決めてないし。何日アンコールワットに行くかなんて、今は考えられない。」
と答えた。
すると彼は、
「アンコールワット1日プラン、朝日も観れるプラン、遺跡を全て回る3日間コースがあるけど、どれにする?」
とさっきと全く同じことを繰り返すのだ。
「この人、人の話、全く聞かん。。。」
と思いながらも、それならばと、私も同じように、さっきと同じ答えを、
「今は考えられないってば」
と繰り返した。
すると彼は、
「どうして?
アンコールワットの朝日は綺麗だよ。
安くするよ。
1日プランだったら、特別に20ドルでいい。」
と言うのだ。
「だからお金の問題とか綺麗とかじゃなくて、今はプランできないからいりません!」
だけど、彼には全くそんな言葉は通じない。
「なんでだよ。朝日のプランは綺麗なんだ。すごくおすすめだよ。
チャーターするなら今お金を払って。そしたら明日の朝4時に君のホステルまで迎えに行くから。」
と言う。
これはお金だけもらってバックレるパターンに違いない。
すると、彼はスマホを取り出し
「日本人はみんな友達。
この人も、この人も、みんな日本人。先週僕をチャーターしてくれたばっかりだ。
いい人たちだったよ。」
と言いながら、今度はインスタに載せた、日本人観光客と彼が一緒に写った写真を見せてきた。
が、別にそんなことでは、全く動じない私。
「ペットボトルの水も一本つくし、どこに行くのにも僕がお供する。ランチも観光にも1日ついていくよ。」
どこに行くのにも、君みたいなしつこい人について来られたら逆に困るわと思いながらも、
「だから、アンコールワットには行かない。
わかった?聞こえた?」
と、私も、ここはかなりきつく言わないとダメなパターンだと理解し、かなりきつい口調で返した。
すると彼はこう言いだした。
「君は日本人だろ?お金を持ってるくせに、20ドルも払えないのか?」
私は内心相当イライラしていた。
が、ここでトラブっても仕方ないので、
I don’t go to Angkor wat(アンコールワットには行来ません)
ときっぱり言って、この話を終わらせようとした。
とにかく早く、市内のホステルまで送っていってほしかった。
するとここで、彼の表情は一変。
「このトゥクトゥクは、僕のことをアンコールワット観光で一日チャーターしてくれるなら無料なんだ。そうじゃないならい今すぐ金払え。そうじゃないなら僕は君をホステルまで送っていかない。ここで降りてもらう。」
そう言ってきたのだ。
だから私はそこでこう言った。
「そんな話は聞いてない。確かに無料だと言ったよね。それを言うなら、乗る前に言うべきだ。そんな話一言も聞いていない。そうやって嘘をつくなら、私ここで降りて歩いて行くからいいよ」
想定外の言葉だったのか、彼は一瞬驚いた顔を見せ、黙ってしまった。
流暢に、無理やり観光プランを進めてきたさっきまでの彼の自信は、今ではどこかに行ってしまっていた。
そんな彼の口はもごもごと何の言葉も発せずに動いている。
そこで私は仕方なく
「君をチャーターするけど、どのプランにするか決めてないから連絡先教えて。そしたら後で連絡するから、日にちとかあとで決めよう。」
私はそう言ってみた。まあこれは、ある意味、作戦だ。
こんなホテルから離れた場所で、こんな大荷物を持って、歩いて行くなんて私だってほんとは嫌だ。
ここはうまくやらねば。
実際のところ「こんな嘘つき、チャーターなんてするわけないけどね!」と思っていたのだけれどね!笑
そして連絡先を教えたことで、彼はやっと自分をチャーターしてくれると安心したのか、無事ホステルまで送ってくれた。
トゥクトゥクを降り、
「じゃあまた連絡するね」と言うと、彼は何度も謝ってきた。
そして、あれだけ金払えとあんなに怖い顔で言っていたのに、その態度は急変し、私の持っていたギターを指して、
「ギター弾けるの?すごい!君は可愛い日本人。僕らは友達。いつか僕が日本で働けるよう手伝ってね」
と笑顔で言ってきた。
その謝りと笑顔とトークは、心のそこからのものではない。
私に、彼をチャーターしてもらうためのものだ。
あわよくば、日本に行って、働けるようになればいいと思っているのだろう。
「金を払わないならここで降りろ」と言っていたあの怖い顔が、彼の本性だ。
ただ、その本性でさえも、彼の性格どうこうの問題ではないかもしれない。
カンボジアと言う貧しい国で働く人たちが、日本から来た人を見れば、カモのように思ってしまうのは、彼の性格だけの問題ではなく、社会の問題でもあるのかもしれない。
貧しい国で育ち、そんな風に生計を立てている人たちを、幼い頃から身近に目にして育ってくれば、そうすることになんの抵抗も持たなくなってしまうのかもしれない。
それに、日本人は、自分の意見を主張しないことで有名だ。
押せば行けるし文句も言わない。
そう思われているのを、旅をしていると感じる場面がたくさんある。
「彼だけが悪い」
そう考えて、彼に怒りをぶつけるのは簡単だけれど、大事なことはそうではないと私は思う。
何が彼をそうさせているのか、考えさせられる初日だった。
ここで言っておきたいのは、当たり前だけど、カンボジアのトゥクトゥクの運転手、全員が全員、そう言う訳ではないということ。
だが、そういうケースは多い。
ホステルのスタッフもこの後、
お金を払ったのに、約束の当日にドライバーが現れないで、トンズラされると言うのも、よくある話だと言っていた。
まあでも、当の私といえば、こういうハプニングも、旅の最中は意外と楽しんでいたりするのだけどね。
そう言うえば、バンコクのトゥクトゥクでは、こんな経験一度もしたことがなかった。
それどころか、数バーツ小銭が足りない時なんて、「いいよいいよそれくらい」とおまけしてもらえることすらあった。
さて、ホステルでシャワーを浴びた後は、シェムリアップの中でも一番賑わう、「パブストリート」へ。
パブストリートは、外国人の集まるエリアだ。
ホステルから、パブストリートへ向かう道も、素朴そのものだった。
決して賑わっていない訳ではない。
たくさんの観光客が出歩き、地元の人たちが声をあげて呼び込みをしているのに、その光景はなぜかとっても素朴に見えるのだ。
私が今まで行った中で一番好きな、ネパールのカトマンズで感じた雰囲気と似たものがあったせいか、この街が一気に好きになった。
そしてパブストリートに到着すると、その驚きは更に大きくなった。
ネオンがキラキラ光る、「パブストリート」であるのにも関わらず、やっぱりその印象は、素朴だったからだ。
バンコクのカオサンストリートからやって来た私にとっては、とても驚きだった。
バンコクでは当たり前だった、ガンガンに店から流れるダンスミュージックもなければ、酒に酔って大騒ぎする人たちも、不思議なコスプレをして異様なオーラを放ち、注目を浴びるような人たちもいなかった。
同じ東南アジアである隣国カンボジアは、タイとは何もかもが違っていた。
私はそのパブストリートの中で、欧米の料理が食べられるお店に入ると、イタリアンソーダと、パスタを注文。
イタリアンソーダは、パッションフルーツのタネがカリカリ、そしてソーダがきつく効いていて、長時間のバス旅で疲れた体に染みた。
パスタは、なんだか洋食なのかよくわからない味だった笑。
そんな料理を味わいながら、パブストリートの街並みを、楽しむ。
2019/3/29
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