メニューのないレストラン
サイードも、バダールもいなくなってしまったホステルは、
どこか寂しかった。
約2ヶ月、毎日顔を合わせ、
話をして、ふざけあって、
真面目に語って。
たくさん思い出詰まっているのだから、
当たり前だ。
ソファに座って、いつもの様にブログを書いていても、
そこにバダールやサイードの姿はない。
「How are you my sister?」
と聞いてくる、
鼻にかかったバダールの声も、
突然後ろから髪を引っ張り、
知らんぷりして通り過ぎ、
ニヤニヤ笑うサイードの姿もなかった。
もう何ヶ月もいるクアラルンプールで、
特別新しく行く場所もなく、
お金もないので遠くにも行けず、
一人寂しくソファでブログを書いていると、
エジプト人のバッセムが私の隣に座ってきた。
バッセムは、ぽっちゃり系の体型で、よく笑い、いっつもジョークばっかり言っている。
「Hi Miho, did you eat Breakfast?」
「まだだよ〜」
「一緒に食べる?
目の前にお気に入りのレストランがあるんだ」
そう言って、本当に目の前、
ホステルの向かいに立つ建物を指差した。
「うーん。さっきもらったマンゴー食べたばっかだからお腹すいてなーい。また今度ね。」
と答えると、彼はオッケーと言ってその建物の中に入っていった。
しばらくして、戻ってきた彼が、
今度はこんなことを言う。
「あーお腹いっぱい。
チキンと、パン5枚と、フライドポテトと、オムレツと、サラダがついて
いくらだったと思う?」
「えー、それだけ聞いたら、
20RM(525円)くらいに聞こえるけど」
「8RM(210円)だよ」
そう言う彼の顔は、めちゃくちゃ自慢げ。
それもそうだ。
だってそんなの安すぎだもん!
私は
「えーーーーー!!!」
と声を上げてしまった。
「次絶対行くわ!そこだよね?
その目の前だよね?
お腹すいたら今日行ってみる!!」
そうして夕方3時半頃、
私は歩いてホテルから歩いて5秒の、そのお店に入ってみた。
お店と言っても、レストランの様な外観ではない。
ドアがあるわけでもないし、壁さえあるわけでもない。
建物の屋根の軒下の
外のオープンなスペースに、
ガスコンロとテーブルをいくつか置いただけの、とってもシンプルなレストランだ。
私は、普通なら、ここを「食堂」。
そう呼ぶかもしれない。
建物の作りだけなら、食堂というよりむしろ、「ただ食事をできる場所」と呼んだ方が正しい。
が、私は、ここのシェフ、
ここに集まってくる人たちのことが大好きで、
のちにこのレストランが世界で一番レストランとなるので、
敬意を称してレストランと呼ぶ。
私はそこに入った瞬間、
一瞬、バッセムはここのことを言ったんだろうか?
食事がここでできるんだろうか。
と疑問に思った。
が、テーブルにはお客らしき人がいて、食事をとっていたので、どうやらここはレストランらしい。
私は、席に着くと、シェフらしきおじさんに、
「メニューは?」
と聞いてみた。
すると、
「メニューはないよ。
今はフライドポテトかパンとか、あとはオムレツしかない。
さっきまでサラダがあったんだけど、もう品切れだ。あとはチキン。
どうする?」
と言う。
私は、
「いくら?」
と聞いてみた。
「いくらでもいい。逆にいくらがいいの?
チキンなしなら4RM(105円)でいいよ。
フライドポテトはいる?オムレツは?」
「じゃあ、チキンなしで、フライドポテトとオムレツとパンで!」
そう言ったら出てきたメニューがこれだ。
私は一口食べてみて、びっくりした。
まずオムレツ、、、、、
これ、、、
オムレツなのか?!!
ってくらいめちゃくちゃうまい。
こんな美味しいオムレツ、マジで人生で一度も食べたことがない。
私は本気で、もう一切れ欲しいってお願いしようかどうか迷ったほどだ。
何種類かのスパイスやハーブが効いていて、少し辛くて、
ひき肉とポテト、トマト、オリーブなどが入っている。
ああ、今これを書きながら思い出しただけで超美味しい。
そしてフライドポテトもパンも、彼が全くのゼロから作ったものだった。
ポテトをスライスして揚げ、
パンも生地をこねるところから彼が自分でやっている。
いやあ美味しいのなんの。
で、しかもこれで105円!!
私は食べながら、彼に、何度も美味しいと伝えた。
真面目で堅い印象の彼は、
「サンキュー」
と真顔で一言、言うだけだ。
彼の笑顔を見ることは、この日なかったけれど、
私は彼から、冷たい印象を受けることはなかった。
その代わりと言ってはなんだが、
一生懸命、このメニューはどうやって作るとか、レシピはどうだとか、いつもはもっとたくさんメニューがあるんだとか、真面目に教えてくれた。
私は、お金を払うと、お店を出る前、彼に、
「めちゃくちゃ美味しいから、今日の夜も絶対来る!!」
と約束をした。
彼は、また、真面目な顔で、
「オッケー。」
とだけ言って胸に手を当てた。
私は夜、約束通り、また同じ店にやってきた。
私を見つけると、彼は、
おー、来たのか。
というような顔をする。
私の方から、
「ハロー!元気?また来たよ」と挨拶をすると、
彼は、「うん、うん」と言った感じで頷いた。
あまりフレンドリーと言った感じではないけれど、
まあどうぞ、
と少しぶっきらぼうに私に席を用意してくれた。
旅をしていて出会う人って、
ニコニコでフレンドリーで、毎回握手やハグをして、おしゃべりで、
そんな人が多いように思う。
でも彼はちょっと違っていた。
でもやっぱり、そんな彼に、悪い印象を抱くことはなかった。
なんだか、日本の、昔かたぎなおじいちゃんって感じがして、私は嫌に思うどころか、快く思った。
毎日お店に通うようになってからわかるのだが、
彼は本当に、心の温かい人だ。
それでいて真面目で、悪いことをする人が許せないタチなのだ。
私は案内された席にはつかず、
そのまま彼が料理をしている側に立って、彼の料理するところを見ていた。
私が彼にひっついて
「ねえこれは何?なんのスパイス?
今何入れたの?これはどうやって作るの?
味見していい?
さっきのオムレツの作り方も教えてよ!」
とあれこれ、質問するのに、
彼は真面目な顔をして1つ1つ丁寧に答えてくれた。
そうして出てきた料理はこれだ。
うおーー!昼間より豪華になってる!!
私はやっぱり一口食べて、めちゃくちゃ驚いた。
だって、何を食べても私の超好みな味がするんだもん!
マッシュポテトは、ニンニクやマスタードが少し効いていて、クリーミーで、最高だし、パプリカとナスの冷製サラダは、スパイシーでトマトソースが聞いていて、これも最高だった。
私がご飯を食べていると、同じホステルに泊まっている、チベット出身の男性がやってきた。彼もここが好きで、いつもここでご飯を食べているらしい。
テーブルの上には、ミントが置いてある。彼はこれを育てて、料理に使っているらしい。
大事に植物を育てるのが、なんだか可愛らしく思えてしまった。
私は、彼にお金を払うと、「毎日ここに食べに来る!」
と約束した。
「オッケー、ウェルカム。
このホステルのメンバーみんなが、僕のレストランに毎日来てるよ。
君の友達サイードもそうさ。
バッセムもそう。マニもね。
じゃあバイバイ、おやすみ!」
「お休みなさい、また明日!」
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