窓ガラスの中に。
目が覚めると私は大荷物とたくさんの服の中に埋もれるようにして、硬いベンチに横になっていた。
そうだ、ここは台湾のネカフェ。
周りを見渡すと、ホームレスのおじさんたちが、私の周りのブースでスヤスヤ寝ている。
時計を見ると、すでに朝10時近い。
昨夜は、夜通しネットゲームに狂った若者たちが、ヘッドフォンを頭につけ、PCの前でキーボードを叩きながら、発狂したように大声を上げていた。
きっと、自分のキャラクターがヤラレそうになったり、勝利したりするたびに、興奮して大声を出さずにはいられなかったのだろう。
荷物に埋もれた硬いシートと、彼らの声、寒い空調、タバコの匂いというあまりの寝心地の悪さに、夜中と明け方に何度も目が覚めたせいで、まだまだ眠い。
そういえばシャワーも浴びていない。
ネカフェと言えば、シャワーくらいついているかな、と思っていたのだけれど、台湾のネカフェはそうではないみたいだった。
さてと、そろそろ行かなくちゃ。
荷物に埋もれたベンチからようやく立ち上がり、重い荷物を持ち上げて外へと向かった。
今日は土曜日。
きっと西門は、昼頃からすでに賑わっているだろう。
今から歌いに向かったって早くはない。
窓のない、淀んだ空気のネカフェから外へ出ると、冬の清々しい朝の空気が待っていた。
行く先を決めていない私。
とりあえず、目についた道端のベンチに腰をかける。
と、その瞬間に雨が降ってきたので、私は、荷物を雨の防げる建物の屋根の下へと移動した。
ふと気がつくと、そこは、路上ライブ初日、ギターを抱えたまま、歌い出すことができず、1時間以上下を向いて座っていた場所だった。
あの時と同じ場所に座っている私。
たった二日だけど、中身はあれからだいぶ成長した。
それは、台湾の人たちの温かさのおかげだ。
ふと、誰かの視線を感じ、前を向くと、鏡のようなガラス窓に移った自分が、こちらを見ていた。
その自分は、何だか生き生きしているように見えた。
そういえば、私は、これだけの荷物を抱えて、電車に乗ったり、市内を歩き回ったりしているわけだけど、不思議と全く辛さを感じない。
もちろん、体の疲労や筋肉痛、痛みは感じる。
けれど、それを「辛い」と思わないのだ。
むしろ、その本来なら辛いと思えるようなことをしている状況さえ、ワクワクしてしまう。
それは、私が心から好きで心からやりたいことを今やっているからだろう。もし、これが誰かに頼まれて嫌々していることなら、きっと辛くて仕方がないはずだ。
自分が心から好きなことをしているときは、一見辛い状況でさえも、楽しみに感じてしまう。
そして、困難が伴う方が冒険は楽しい。
私は、短い人生の間、せっかくなら、自分の好きなことをやって生きていきたいと思う。
それは、辛いことや苦しいこと、努力を避けて生きたいということとは違う。
本当にやりたいことをやって生きているのなら、困難でさえも吸収して、プラスに変えられると思うのだ。
それに、
好きでもないことを、誰かのためにやる人生、
好きでもないことを、誰かによく思われるためにする人生、
そんなの、誰のための人生かわからない。
自分の人生は自分のもの。
肩書きや評価は他人がするもの。
自分は自分の価値観に従って生きれば良い。
そうすることでしか、自分にとっての幸せは得られない。
みんな人それぞれ、考え方や価値観、想いは違うのだから。
さて、お腹のすいた私は、お昼へと向かう。
今日のお昼は、シジミのニンニク醤油漬けと決めていた。
ガイドブックで見た時から、これだけは台湾滞在中に絶対に食べようと決めていたのだ。
道でおばちゃんにガイドブックを見せると、親切にもそれが食べられるお店まで案内してくれた。
席について、出てきた小皿のシジミを、1つとって食べてみると、これがほんっとに最高。。。
醤油と酒とニンニクを混ぜたピリ辛タレに、シジミがしっかり浸かってて、お酒が好きな日本人にはたまらない美味しさだ。
そして、シジミのお供に(本来ならシジミがお供なはずだが、あくまでメインはシジミ)注文した排骨面も、美味しかった。
軟骨のようにコリコリした肩の部分の牛肉を唐揚げにし、薄めの醤油スープ麺に入れたといった感じだ。
こちらも、日本人なら絶対に大好きな味だろう。
お昼を済ませた後は、今日も歌うために、西門へ向かう。
その前に、散々節約しまくってきた私の舌は、何だかちょっとした贅沢を求めて止まなかったので、こちらのデザートを食べることに!
クッキーシューのようなサクサクのクッキー生地の中に、カスタードがたくさん詰まっていて、本当に美味しかった。
リアルタイムでは、カンボジアの首都、プノンペンにいるのだが、これを書いている今、これが食べたくなってしまって仕方がない。
が、ここはカンボジア、そんなものが手に入るはずもなく、、、、
というのはさて起き、私は西門をうろつき、今日歌う場所を探した。
ちょうど良さそうな木のそばに、荷物を降ろし、スケッチブックを広げる。
そして、ギターを取り出した瞬間。。。。
「ここはだめですよ〜」
と、日本語で警官に注意された。
私はその場ですぐに謝って、退散する。
今日は西門はだめそうだな〜。
土曜だからかな。
それでもなんとか歌える場所を探すべく、私は台北101の最寄駅に向かうことにした。
台北で、人が集まる場所といえば、西門と台北101でしょ!っていうことだ。
読んでくれてありがとうございます!よかったら
次の記事:おもてなしとは。