君は日本人だと思ったよ!だって親切だから
早朝5時前、まだ夜が明ける前のことだ。
バンコクのホステルをチェックアウトするため、荷造りを整え受付に向かった私。
電気もついていない薄暗いフロントデスク前に、男性が何かを探している様子で立っているのを見つけた。
彼が振り向いて目が合うと、
「君はスタッフ?」
と声をかけてきた。
「違うけど、どうしたの?」
と聞き返す。
すると困った様子で
「ブランケットが欲しいんだ。友達が僕のブランケット持って行っちゃてさ。寒くて寝られないんだ」
と言う。
私は、
「ちょっと待ってて。今チェックアウトするところだから、もし気にしなければ私のブランケット使っていいよ」と言い、すぐ自分の部屋へと戻った。
未使用のバスタオルと一緒にブランケットを部屋から取ってきて、
「このバスタオル、まだ使ってないから。ブランケットだけで足りなかったら、これも代わりに使って」
そう言って彼に渡すと、「ありがとう」と言いながら彼は目を丸くし、驚いた表情を見せた。
「君はどこから来たの?」
驚いた顔のまま、そう聞く彼。
日本だよ。
と言うと、彼は続けてこう言った。
「やっぱりそうだと思ったよ。日本人はとっても親切だって有名だからね。君と出会えたのが、君がタイを去る日でとっても残念だ。」
聞けば彼は、イスラエル出身の私と同じ24歳だという。
私が持っている、イスラエルに対する知識といえば、中東にある国で、ユダヤ教徒が多く、パレスチナとの土地の問題をめぐって争いが絶えない。
それくらいだ。
あとは、ユダヤ人は、世界を動かすような大企業の創設者など、ハイパー頭が良い人が多いということ。
そんな、あまり日本人には馴染みのないイスラエルからでさえ、
「日本人は親切だ」
と思われているのは、少しびっくりした。
と同時に、嬉しく、そして誇らしく思った。
旅をしていると、「日本人だから」というだけで、良く思ってもらえたり、優遇してもらえたりすることがたくさんある。
それは、日本が世界的に良いイメージを持たれていることが理由だ。
私は、旅を始めてから、日本という国に、誇りを持つようになった。
それと同時に、その日本の輝きは終わりかけているということに、危機感を持つようにもなった。
良いイメージを持たれているのと同時に、「もう日本は終わった国だ。栄光は過去の物」と思っている人にもたくさん出会うから。
それは、日本人のほとんどが英語を話せないこと(世界的に見て、日本人の英語レベルは最悪。特に先進国であるのにも関わらず、これほどまでに英語ができない国は珍しい。そして日本人は英語を喋れないということはどこの国でも有名な話になっている)や、経済状況が良くないことなどが、その理由だ。
そして、日本を出る前、私はあまり日本に対して良いイメージを持っていなかった。
働きたくない会社に嫌々行くのが当たり前になっている文化など、それまで海外をたくさん旅し、外国人の友人をたくさん作ってきた私に取っては、窮屈に感じて仕方がなかった。
けれど、最近になって、日本に対して誇りを持てるようになってきたのが、旅に出てから変わった私の意識のうちの1つである。
彼にお別れを言って、ホステルを出ると、もう外の景色はすっかり朝になっていた。
ここから、重たい荷物を前と後ろに背負い、ギターを持ってバス停まで歩いていく。
うんざりするほどの重さだが、なぜか旅をしている間はその苦痛さえも、乗り越えるべきちょっとした障壁に感じてワクワクしてしまうのだから不思議だ。
バス停に着き、カンボジア行きの長距離バスが出るバスターミナルへの市内路線バスを待っていると、一人の中華系タイ人の男性が私に近づいてきた。
「どこいくんだ?」
「カンボジアへ。」
「そんなら、バスターミナルに向かうんだろ?」
と言って、10分くらいかけて、随分と長くカンボジアまでの行き方を説明してくれた。
が、何を言っているのかがさっぱりわからない。
というのも、タイ語なのか中国語なのか、とにかく彼の英語の訛りが強すぎて、途中まで私の知らない言語を話しているんだと思っていたから。
途中までウンウンと聞いていた私が、それが英語だと気がついたのは、もう彼の説明が終わりに差し掛かっている時だった。
彼がカンボジアまでの道を説明してくれているんだとわかったのは、メモとペンを取り出して、一生懸命地図のようなものを書きながら説明してくれたから。
それがなければ、何の話をしているのかさえ理解できなかったと思う。
彼の話の中でわかったことは、「カンボジアは危ないところだから、とにかく気をつけろ」ということだった。
そして私の乗るべきバスがバス停に到着すると、
「これだ!乗れ!」
と合図をして、最後にバナナを二本、私の手に押し付けるように渡してくれた。
ひたすら良いおっちゃんだ。
見ず知らずの私に、カンボジアは気をつける説明をしてくれて、行き方まで説明してくれて、バナナまでくれるなんて。。。。
ここはタイの首都バンコクだ。
東京で、こんなことってあり得るだろうか。
バンコクで思ったのは、人がとにかく優しいということ。
タイでは地元の人の優しさを感じることが本当に多かったように思う。
バスへ乗り込むと、床が木でできている、超絶ローカルでレトロなバスだった。
タイのバスに乗ると、なぜかいつもネコバスが思い浮かぶ。
ここからバスターミナルまでは約1時間半だが、バスの運賃は約50円という驚くべきやすさだ。
タイのバスターミナルは、床をゴキブリがてくてく歩いていたりはしたけれど、意外と綺麗だった。
さて、このバスに乗って、カンボジアへの門を潜りにいく!
未知の世界への入り口は、いつだってワクワクする。
国境を越えるバスを前にすると、早くそこへ向かい気持ちを抑えられなくなる。
例えるなら、ディズニーランドのアトラクションの乗り物が目の前に到着し、これから夢の世界へと冒険しに行く時のような気持ちかもしれない。
さて、その冒険のお話の続きは、次回にするとしよう。
2019/3/29
次の記事:未知の世界、カンボジアへ
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