エベレスト9日目③ 標高5550mカラパタールで死ぬ思い – 旅するシンガーソングライター|内田美穂
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2018/03/10〜2018/03/21 エベレスト登山

エベレスト9日目③ 標高5550mカラパタールで死ぬ思い

9日間エベレストを歩き続け、ラストスパートの岩をよじ登り、ついに、最高標高地点のカラパタールへと到達した私。

そこは、岩石の集まりのてっぺんにできた、人二人が居すわるのにやっとなほどの、狭い狭いスペースだった。

後ろの空は、青黒くどこまでも向こうへ続いていた。

   

大きな岩の塊が、ごろごろしている中で、なんとか座れそうな岩を見つけ、そこに寄りかかるようにしてほぼ立ったまま腰を掛けた。

 

そしてその場所から、目の前に広がる景色を見回すと、思わずため息が出た。

と言っても、酸素の薄い中を歩いてきたせいで、ため息をつく暇のないほど息が切れていたのだが。

もし、呼吸が通常運転であったら、ため息をついていただろう。

 

“ただ立ち尽くす”

この時の私の様子を表すのには、この言葉がぴったりだったと思う。

寒さも忘れ、しばらく声も出ず、ただ目から入る景色をそのまま脳みそに垂れ流していた。

 

 

この時こそ、「山は生きていたらいいな」と思った。

もしも私が、この壮大な景色を包括できるほどの長い腕を持っていたら、思い切り、目に映る全てを抱きしめていたに違いない。

目の前の景色に向けて、「アイラブユー!!!」と叫びたいほどだった。

 

この景色に対し、2:3のカメラの枠の制限は、あまりにも小さすぎる。

360度。

360度。

周りを360度、この景色が覆い尽くしているのだ。

その景色をそのまま見せることができないのが、本当に悔しい。

 

 

真正面には、ヌプチェ山の後ろから、威厳を放つエベレストが黒い頭をのぞかせている。

そして斜め左方向の目下には氷河が広がり、

 

右を向けば、どこまでも続く山脈が、後方の方まで遠く広がっている。

どこを向いても、人の手の加わっていない、そのままの姿の自然が広がっていた。

 

地球は本当にすごい。

同じ一つの星の上に、ネオンの光る人混みのビル街と、電気ひとつない人の住めない大自然が、両方存在しているのだから。

 

 

360度、見渡す限り、自然しか目に入らない場所なんて、そうそう訪れることはできないだろう。

どんな自然公園でも、ぐるりと一周その場で一回転してみれば、大抵人工物が目に付く。

登山をしたって、山頂から見下ろせる景色は、家々の並ぶ街並みだったりする。

人の住んでいる場所からよほど離れた場所へ行かない限り、本当に人の手の加わっていない場所に訪れられる機会は、なかなかない。

 

逆に言えば、ここは、何か起きた場合に、すぐに人の助けを呼べる場所ではないということでもある。

 

 

ところで、意図せず撮れてしまった私の顔面は山の強い紫外線で、日焼けして、皮がむけて肌がおかしなことになっていた(笑)

      

 

    

全くいい写真が撮れた笑。

この写真を撮ったあと、サンディップは私を残し、そそくさと一人でロッジに向かって下山してしまった。

体調が悪いのだから、まあ当たり前だ。ここまで来てくれたことに感謝だ。

 

私は、彼の帰ったあと、一人でこの場所にしばらく腰掛け、景色を眺めていた。

1時間でも、2時間でも、ここへ腰掛け、この景色を眺めていたかった。

 

 

しばらくすると、一人の白人男性が、こちらに向かって歩いてきた。

ラストスパートの岩場に彼が辿り着いた時、私は彼の方へ手を伸ばし、ストックを預かり、彼がここへ這い上がるのを手伝った。

 

その男性は、チリから来たのだと言う。

あまり会話はしなかったが、しばらく、彼と並んで座り、一緒に景色を眺めていた。

日本とチリという、地球のほぼ裏側に住む私たち同士が、ネパールのエベレストの、カラパタールという小さな小さな人二人が居座れるほどのスペースに、たまたま居合わせたのだから、なんだか不思議な巡り合わせだ。

 

そんなことを感じながら、私は、この広い広い壮大な空間を感じていた。

 

 

 

と、まさにその時、私はものすごい尿意に襲われ始めた。

 

覚えているだろうか。

私は今朝、膀胱炎になり、ものすごい尿意の為に1時間もトイレにこもっていたことを。

 

膀胱炎にならないための秘訣は、水をよく飲むことだ。

それを頭に入れながら、途中小まめに水を飲みながらここまで登ってきたお陰で、トイレに行きたくなってしまったのだ。

 

よく考えれば、ロッジを出発してから数時間歩き続けてきたわけで。

そろそろトイレに行きたくなる頃と言えばその頃だ。

 

 

だが、こんな場所にトイレなどない。

もちろん、道の途中にもだ。

 

一番近いトイレは、ゴーラクシェプの私が泊まっているロッジである。

遠く向こうの元来た方向を見つめてみたが、数時間歩き続けてやっとたどり着いたこの場所から、ロッジなど到底見えるはずもなかった。

 

その間にも、猛烈な尿意は、私の膀胱を襲う。

今朝、ひどい膀胱炎になったこともあり、その尿意の強さは只者ではなかった。

 

ついに私は、チリ人の彼の横で、もじもじし始める。

 

私は、今できる最善の策は一体何か、酸素の薄い中で、そしてこの大自然に感動した心持ちの中で、必死に脳みそを動かし考えた。

 

 

頭に浮かんだのは、

ロッジまで数時間我慢するか、

それとも青空の下で用を足すかの二択だ。

 

が、ロッジに下山するまで、この尿意が持つわけもない。

 

となると残りは一択なわけだ。

だがそれは、23歳、仮にも女子である私にとっては多少なりとも大きな決断である。

トイレ以外の場所で用を足したのは、いつが最後だろう。

きっとまだ、記憶のストレージが、しっかり出来上がる前のことだろう。

 

 

ましてここはエベレストのカラパタール。

このトレッキングでの、クライマックス地点だ。

こんな場所で用を足すなんて。

 

そして隣には、男性が座っている。

 

 

いくらこの私にでも、多少の躊躇はあった。

 

 

が、いよいよチビりそうになったその瞬間、もはやこの強烈な尿意はそんな躊躇いを一瞬で吹き飛ばし、私の体を勝手に立ち上がらせていた。

 

「アイ ワナ ピーピー!この岩の陰でオシッコするけど、まじでスミマセン。本当に気にしないでください!!」

と彼に向かって英語で言い放つと、私は岩石の塊を駆け下りた。

「ok。気にしないよ」

と1ミリも動ぜずクールに言う彼の言葉が、背中に冷たく刺さる。

なんならもう少し、笑うなりしてくれた方が、気が楽だ。

 

 

すでに膀胱が破裂しそうだった私には、大変な思いをしてよじ登ったこの岩の階段は、トラップのように感じた。

そうして彼のいる場所から2mほどくだった場所で、岩の裏側へと周り、誰も私を見ていないか周りを確認する。

 

人の姿が見当たらないことを確認すると、冷たい強風の吹く中、エベレストの標高5550m地点で、絶景を背に私は用を足した。

 

こうして命からがらに、失禁という事態免れ、23歳にして何か大切なものを失う代わりに、また一つ武勇伝を得たのであった。

 

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この記事を書いた人

旅するシンガーソングライター

1994年生まれ/埼玉県出身。 高校生の頃から、ラジオやライブハウスに出演し、シンガーソングライターとして活動。 ​早稲田大学を卒業後、一年のギャップイヤーを経て、2018年4月に広告会社に入社するも、世界一周を決行するべく退職。 現在は、ギター弾き語りで旅費を稼ぎながら、世界一周中!エベレスト等ヒマラヤを二度登山したりと「やらない後悔よりやった後悔」がモットーの旅人。 もっと見る

  uchidamiho2929@gmail.com

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