最悪の事態。インドでギターが消える!?
荷物をまとめて、そろそろ出発だ。
今日は、ここ、ヒンドゥー教の聖地バラナシから、首都デリーへと向かう。
ホステル近くでリキシャーを広い、バス停まで行くと、もう既に私の乗るバスは到着していた。
後ろのトランクに大きな荷物を預け、ギターとサブバックを持ってバスに乗り込む。
バスの入り口の階段に足をかけ、中に入った瞬間、私は、びっくりした。
だって、想像の20倍ぐらい、豪華だったから。
作りはちゃんとしているし、ボロくないし、きれいだし、
コンセントも、
冷房もついている!
昨日、列車のジェネラル席にするかどうかを一瞬でも考えた自分があほに思えてきた。
まあ、それに乗ればそれはそれで楽しい経験ができたのだろうが、この快適さは、インドの長距離列車の一般席からすれば、天国だろう。
ペットボトルの水まで配られるというサービス。
東南アジアでも、散々長距離バスには乗ってきたが、車両や座席は大体ボロく、前の座席との幅が驚くほど狭いのが普通だった。
まして、コンセントなんて、絶対についているはずがない。
私は、豪華なバスのおかげで、うきうきしながら指定された自分の座席に座ると、リュックを抱えるようにして持ち、ギターを座席の下に入れた。
私のすぐ後ろに座っていたのは、80歳ほどの、インド人老夫婦だった。
バスはほどなくして、定刻よりも少し早く出発した。
おいおい、まだ来てない乗客いたらどうするん笑笑
ほんとインド、クレイジー。
そしてもう一つ、唖然としてしまったことがあるとすれば、バスのクラクションの音だ。
インドでは、車線を変えたり、前に人がいたり、お先にどうぞと道を譲ったり、とにかくことあるごとにクラクションを鳴らす。
いや、もはや、何の意味もないのに、ドライバーが暇つぶしにクラクションを鳴らしているんじゃないかと思えるほど、頻繁にクラクションを鳴らす。
10秒に一度は鳴らしているだろう。
だから、インドにいると、クラクションが聞こえてこない瞬間が一秒たりともない。
常に混雑している道を行きかう大量のバイクや車たち。
それが10秒に一回鳴らしていたらそうなるだろう。
常にクラクションがなっているのが当たり前だ。
その、たくさん鳴らすクラクションの音が、このバスはなぜか、
「パラリラパラリラパラリーリラ」
という、チンピラのようなメロディになっているのだ。
バスがクラクションを鳴らすたびに、このメロディが、大音量で3秒間流れる。
想像してみてほしい。
バスのクラクションという大音量で、3秒間チンピラのようなメロディが10秒間に一度流れるのだ。
ほんとうにうるさい。
そしてこのバスは、寝台バス。
夕方から、明日の朝まで13時間かけて移動するバスだ。
寝れんわ。
と言いつつ、結局疲れもあってぐっすり眠ってしまった私。
出発から数時間経ったところで、初めてのトイレ休憩があり、そこで目が覚めた。
バスから降りると、そこは真っ暗。
バスは、大通りの路肩に停車していた。
道路をまばらに通る車のヘッドライトと、道路の反対側に数件建っている、小さな商店の灯りがあるのみで、他は真っ暗だ。
トイレらしきものは見当たらない。
「トイレ、どこ?」
バスの運転手さんに尋ねると、彼が指を差したのは、反対側車線。
が、商店があるだけで、やはりトイレらしきものは見当たらない。
もしかして、お店のトイレ借りろって言ってるんだろうか。
と、そこで、黄色のサリーを来た母親らしき女性と、その娘らしき女の子がバスから降りてきた。
バスの運転手さんは、彼女らに何か言ったかと思うと、その女性はいきなり私の手を取り、
「ついてきて」
というように私に微笑んだ。
彼女は私の手をつないだまま、左右に首を振り、車が来ていないことを確認すると、私を引っ張るようにして、大通りを渡る。
そうして向かい側にたどり着くと、慣れた様子で、商店の脇の真っ暗な蔵のような場所へ入っていく。
私は、少し身構えた。
だって、本当に灯りひとつない、顔さえ見えない真っ暗な倉庫の中に、手を引かれて連れて行かれたのだ。
彼女がいくら女性とはいえ、仲間が待ち構えていたら終わりだ。
金品を強奪されるか、強姦されるか。
そのまま蔵の奥へ進んでいくと、彼女は、蔵の中ほどで立ち止まった。
地面を見ると、大きなゴキブリが、4匹、うろうろしているのが、目に入った。
うわ、、、、
彼女はそこで、蔵の壁の扉を開けた。
中をのぞくと、そこがトイレだった。
あ~。よかった。ほんとにトイレに連れてきてくれただけだった。
彼女の娘が、灯りのない真っ暗なトイレに先に入る。
お母さんと二人で順番を待っている間、私が、
「ゴキブリ、気持ち悪い」
というと、彼女は優しい無垢な笑顔で笑った。
彼女を疑ったことを、少しだけ申し訳なく思った。
娘が出てくると、今度は私の番だ。
スマホの灯りをつけて、床を確認しながらトイレに入る。
扉を閉めると、本当に何も見えない真っ暗闇だ。
目を閉じているのだか、開けているのだかさえ分からなくなるほどの闇。
もちろんだが、トイレットペーパーなんてない。
私は、持っていたウェットティッシュを用意した。
そういえば、彼女は、ティッシュなど持っていた気配がなかったが、
一体どうやって拭いたのだろう。。。
と私は疑問に思った。
用を足し終わって周りを見渡すと、水なんてない、バケツも置いていない、どうやら流さない方式らしい(笑)
これまで旅をした中で言えば、ネパールの次に汚いトイレだった。
人生最高に貧相なトイレは、エベレストを登山していた最中の登山道で寄ったトイレだ。
そのトイレは、薄い木の板を張り合わせてできた床の真ん中に、穴が開いていて、トイレの下には藁が敷いてあるだけの簡素なものだった。
あとは言わなくてもわかるだろう。
その藁の上に、トイレの床の上から用を足すのだ。
めちゃくちゃ原始的なトイレだった。
トイレ自体は、板で囲まれているので、中の人こそ見えないが、糞尿がトイレから藁の下に落ちる様子は外から見えてしまうという。。。。
いや、なんでこんな話をしているんだろう。
皆さんがお食事中でないことを祈ります。
すみません。
トイレから出ると、彼女たちと一緒にまた、バスへと戻る。
何も言わず、手を引いてくれた彼女を見て、私は、
アジアや貧しい国の人達って、こういう人が多いなあ
と思った。
知らない人でも、助け合ったり、人懐っこかったり、手をとったり、知らない人にご飯をごちそうしたり、あまり他人との距離を感じていないのだろうなと思うことが多い。
マレーシアでも、タイでも、カンボジアでも、ネパールでも、それはよく感じたことだ。
知らない人にご飯をごちそうしてもらえたり、お茶を飲みながら何時間も話をしたり、仲良くなったりしたことが、何度もあったから。
ヨーロッパやオーストラリアなどにも行ったことがあるが、それらの国や、日本で同じことはなかなか起き得ない。
バスに戻ると、私はまた、眠りについた。
途中、何度か目を覚ましたが、次にちゃんと目覚めたときには、
もう朝になっていた。
どうやら、バラナシからデリー付近まで、やってきたらしい。
約820キロの道のりを超えてきたのだ。
首都というだけあって、バラナシよりも、店や車が密集し、余計に雑踏感が増しているような気がした。
決して豊かではないが、大きな町という印象だ。
もう、あのヒンドゥーの聖地、バラナシ特有の、ガンジス川に象徴される、ゆったりとして神秘的で、それでいてカオスな雰囲気は、ここでは感じられなくなっていた。
そして、後ろを振り向き、バスの中を見渡すと、もう乗客は、私の他に、2、3人しかいなくなっていた。
バスは途中で何度も何度も止まり、乗客を途中で降ろしては、新しい乗客を乗せていたのだが、出発地バラナシから終点デリーまでずっと乗っていたのは、私だけだったのかもしれない。
私のすぐ後ろに座っていた老夫婦も、もういなくなり、代わりに30代前半くらいの青年が座っていた。
私が後ろを振り向くと、彼はじっと私を見つめた。
私は、思わず会釈をしたが、彼は表情を変えず、私をそのまま見つめていた。
途中で乗ってきたのだろうか。それとも席を移動したのだろうか。
そのまましばらく走ると、バスは終点に到着した。
荷物を持って、バスを降り、駐車場に止まっていたリキシャ―にホステルまで行ってくれるよう頼む。
少し高めかもしれないが、200ルピーで交渉成立だ。
と、リキシャ―に荷物を積もうとした時、私はギターをバスの中に置いてきてしまったことに気が付いた。
「あ、ちょっと待ってて!忘れ物」
そう言って、乗ってきたバスにもう一度乗り込む。
「前から3番目、左側の席、、、っと。ここだここ。」
さっきまで乗っていた座席まで来ると、そこでしゃがんで座席の下をのぞいた。
「ひぃっ」
言葉とも声とも言えない、変な声が喉から出た。
息を飲む飲もうとしたら声帯が震えしまい、たまたま音が出てしまったと言った感じだ。
私は、頭の中が真っ白になった。
だって、そこにあるはずのギターがなかったのだから。
私は、すぐに、バスのスタッフに
「ギターがなくなった」
と訴えた。
が、皆英語がしゃべれず、私が何を言っているのか全く通じない。
(?)の表情のまま
「ノーイングリッシュ!!」
と返されるだけだ。
一生懸命、「ギター!!」と叫びながら、
ギターを弾くジェスチャーをし、
彼を座席まで連れて行き、座席の下を指さして、
消えた!!
と訴えた。
するとそこでようやく理解してくれたのか、一緒にすべての座席を周って探してくれた。
が、どこをくまなく探しても見つからない。
あんなデカい物、あったらすぐに気が付くものだ。
彼は、ドライバーを呼んでくれ、鍵を受け取ると、バスの下のトランクや、こんなところが開くのかというような、エンジンルームのような小さなスペースの扉まで開けて、
「ここにはなにもない」
と見せてくれた。
あまり人を疑うのはよくないが、
途中下車が何度もあった、出入りの多いバスのことだから、眠っている間に盗られていたとしてもおかしくないだろう。
皆を疑いたくなって、本当に嫌になった。
ピッタリ後ろに座っていたあの青年だって、バスのスタッフだって、嘘をついていたかもしれない。
そんな風に、思えてしまう。
その場に30分以上滞在しただろうか、それでも見つからないので、私は仕方なく、トゥクトゥクに乗ってホステルに向かうことにした。
「あーーーーーもうーーーくそおおおおおお!」
と、小さな声で叫びはしたけれど、
後悔するのはこれでおしまいだ。
世界一周半分まで一緒に旅したギターだったけど、誰かのもとで、新たな旅をしてくれることを願うしかない。
そして、何より、インドを旅しているのに、座席のしたに無防備に置いていた自分が悪いのだ。
盗られたら、もう、出てこないだろう。
ここは日本ではない。
「盗まれた~なくなった~犯人捜して~」
なんて他人に期待していても何も始まらない。
人に助けてもらえることはとてもありがたいけれど、
最初から他人に期待していてはいけない。
頼れる人は自分のみ。
それくらいの意識でいるしかない。
1人で旅をすることを自分で選んでしているのだから。
自分で解決するしかないのだ。
それくらいの覚悟をしておくことが、必要なのだ。
自分の責任!
そう思うからこそ、学ぶことができるし、次に生かすことができる。
誰かのせいにしていたら、自分自身は反省できないままだ。
自分の責任だと受け入れるからこそ、反省を次に生かすことができる。
被害者意識を持っていても、余計につらいだけ。
なら私は、ギターには申し訳ないけれど、自分の責任だと割り切って、次から同じことを繰り返さないよう、自分自身がもっとしっかりする道を選ぶよ!
それに、新しくギターを調達したら、それまでのギターでは得られなかった素敵な経験が待っているかもしれないしね。
そう、ポジティブに考えるしかない。
過去は誰にも変えられない。
変えられるのは、未来のみ。
素敵な未来は、立ち止まっているひとのところには降ってこない。
明るく前を向いて、チャンスを掴もうとしている人の所に、やってくるのだ。
ああ、でもやっぱ、ギター。。。悔しい(笑)
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