チキン泥棒
そんなわけで、
タイからマレーシアに戻ってきた私。
この日私は、クアラルンプールの中心地、ブキッビンタンにあるKFCで、チキンを食べていた。
KFCでは、wi-fiが使えるので、
スマホを存分にいじり、SNSを楽しみながら、チキンを片手に、優雅な時間を過ごしていたわけだ。
この時までは。
この時の私は、まさかあんな事が起きるなんて、知る由もない。
それは、なんの前触れもなく突然やってくる。
私が、右手にスマホを持ち、ツイッターを見ていた時のことだ。
突然、右後ろから、色黒でシワシワの汚れだらけ、骨と皮だけのような手がサッと伸びてきた。
その手は、金をくれ、というように合図をしている。
マレーシアでは、レストランで食事をしている客を目当てにやってくる、物乞いが、大勢いる。
いちいちお金を上げていたらきりがない。
それに、私も、今は貧乏人だ。
悪いけど、彼女にお金をあげられるほどの余裕はない。
だから、最初は無視していた私。
けれど、その手は、そのシカトにメゲることなどなく、しつこく金をくれと合図をしていた。
こいつはシカトじゃあ折れないパターンだ。
そう思った私は、
「ノー!」
と強めに言った。
するとその瞬間、そのシワシワの手は、さっと手のひらを翻したかと思うと、
私のチキンをパッと掴んで持ち上げたのだ!
私は、思わず
「え、ノー!ノー!」
と声を上げ、
その手を掴もうと咄嗟に手を伸ばす。
が、あと一歩のところで届かない。
そのシワシワの手から目を離し、パッと顔を上げて、その手の正体、つまりそいつの顔の方へ目を向けると、そこにはしわがれた、女が立っていた。
痩せ細り、髪はボサボサ、
なんとそいつはそれだけでなく、
歯を向いてこちらに威嚇するような表情を見せていた。。。
「や、やまんば!!!」
そう思った瞬間、今度はそいつは歯をむき出しにし、鬼のような形相をわざわざこちらに向けながら、チキンに食らいついた。
「うわっ。。」
私は思わずドンびいた。
『食らいつく』
この表現がこれほどに似合う人間が、他にこの世にいるのだろうか。
あの顔は、普通の人間のする表情ではない。
その顔を見た瞬間、もう、私は、チキンのことなどどうでも良くなっていた。
私は、ただひたすらに怖くなった。
彼女は、私を睨みつけ、歯を向け、肩を上げながら、まざまざと私の目の前でチキンを食べ続けている。
私は、その表情を見て、愕然としながらも、そいつを十分に警戒したまま目を逸らさないようにし、それから他のものを盗られたりしないよう、カバンしっかり抱え、カメラとスマートホンを握りしめた。
そいつは、私の前でチキンを食べ終わると、
「ハン!!」
と言って、鼻息を大げさにつき、顔でざまあみろ!
というように合図して、私の元から立ち去っていった。
もう一度言うが、
あれは、普通の人間のする表情ではない。
私は、あまりに一瞬のことで、何が起こったのかわからず、呆然としていた。
向かい側の席に座っていた男性は、じっと一部始終を見ていた様子だったが、私と目があった瞬間に、パッと目をそらした。
私は、最初からひとりだったが、チキンを失い、彼らに目を逸らされ、なぜかたった一人になってしまったような心細い気がした。
その間にも、そいつは違う席の人たちの元へ向かい、更なるお金や食べ物を求めて、KFC内を歩き回っている。
超絶お金がないのに、食料を奪われたことが悔しかった。
が、しばらく経つと、私はもう
「これはこれで超面白いネタじゃん!チキンを手づかみで泥棒されるなんてなかなかなくない?」
と前向きに考え始めていた。
そこで、ツイッターに、この怪奇なハプニングのことを投稿した私。
ケンタッキーでチキン食べてたら、知らないおばさんが近づいてきて、私のチキン(ほぼ食べてない!まだ皮しか食べてない!)を手で掴んで持ってって、私の前でかぶりついてそのまま持ってっちゃった!!!
なんてことだー!私の夕飯〜!!
— 内田美穂 / 旅するシンガーソングライター / ギター弾き語り世界一周 (@bleatand) April 23, 2019
すると、投稿から数分で、「ブブ」というバイブレーションとともに、いろんな反応が来る。
それをチェックしていると、こんなリプライが目に止まった。
ケンタッキーの店員に抗議しよう!
— ウーハ店長 (@cafeuha) April 23, 2019
「その手があったか!!」
そう思った瞬間、私は速攻席を立って、レジに向かった。
そして、
「今さっき、私がチキンを食べていたら、知らないおばさんが、それを手で鷲掴みにして持って行っちゃったんです!」
と訴えた。
すると、スタッフたちは、気の毒そうに、そして少し可笑しそうに、
「わかったわ。もう1つ新しいのあげる」
と言って、
新しいチキンをくれたのだ!
いやあ、物事は、諦める前に、なんでも試してみる価値がある。
そもそも、スタッフに言ってみるなんて、思いつきもしなかったのだけれど。
そうしてゲットしたチキンがこれだ!
私はこの日、最初に食べていたチキンの半分と、新しいチキンの合計1個半を手にすることができたのだった。
ウーハの店長、、、、ありがとう!
なんなら、あのヤマンバにチキンを盗られなければ、これはなかったわけだ。
一応さ、
ヤマンバも、、、、ありがとう笑
いつも思うけれど、不運な出来事が、、幸運のきっかけになることが多いと思うのは気のせいだろうか。
だから私は、嫌なことが起きた時も、心底ポジティブでいられるのかもしれない。
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